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続編 第四章 相思相愛8

last update Last Updated: 2025-01-19 18:14:47

十月になると、引っ越しの準備をはじめた。4LDKで少し広めの家に移ることにしたのだ。

今月の半ばには、この家を出ていこうと思っている。

もし子供が増えたら一軒家を建てようかとも話をしていた。

私と彼の誕生日は六日しか変わらない。

引っ越しもするし、忙しいので今日はささやかな誕生日パーティーを二人ですることにした。

今日は自宅でピザを注文しケーキは大くんが買ってきてくれた。

「誕生日おめでとう」

貰い物のワインで乾杯をする。

「美羽も三十路か」

「信じられないね」

はじめて出会った頃はまだ十代だった。お互いに子供で何もわからなくて。その時の私たちは私たちなりに真剣に生きてきたのだ。

「おばあちゃんになる美羽を見るのも楽しみだ」

「私も。大くんは年齢を重ねてもずっとイケメンなんだろうな」

「努力していかないとな?」

お互いにプレゼントを購入していたので交換をする。

大くんは私に可愛らしい髪の毛のアクセサリーをくれた。

「すごく可愛い!」

「気に入ってくれてよかった」

私からのプレゼントは、手作りのクッキーと手紙にした。

「すごく嬉しい」

手紙をじっと見つめてニヤニヤとしていた。そして急に私のことを抱きしめて優しくキスをはじめたのだ。

甘すぎる二人だけの誕生日会になったのだった。

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